彼らは何に絶望しているのか?『絶望同盟』

話の内容を軽く説明すると、色んな悩みを抱えた4人がゲタ箱前でだべる、という話。しかしこの作品を読んでて、ふと「彼らの絶望は、本当に絶望と呼べるのか? 誰も絶望していないのでは」という疑問が沸いた。その答えを簡単に言うと、登場人物のひとりであるサナが「生きてゆくのは、とても寂しいことですね」とふと呟いたこの一言、これが「絶望」の正体だ。


何故この一言が絶望の正体なのか、以下順を追って説明する。


まず、前提として登場人物4人が内包している絶望は、それぞれ「ロリコン」「容姿と自身の性」「嫌世感とトラウマ」「倦怠感」である。だが、この各要素「だけ」では絶望とはとても呼べず、またその原因自体が絶望では無い。その原因の表装だけを見て、それ自体を絶望だと認知するのは早計だろう。


さらに付け加えるなら、それを踏まえても「誰も絶望してない」と感じることは、「真」である。「誰も絶望してない」って感想を抱くのは、その当人だけの絶望を、理解出来ない、共有できない、ということの証左になっている。


ここでサナが言った

「生きてゆくのは、とても寂しいことですね」

が意味を持ってくる。この台詞を端的に説明するなら、ひとり佇む木羽を見たサナが感じた、お互いの絶望を、理解出来ない、共有できない事を意識し、発した言葉だ。一見客観的にみればつまらないような悩みでも、当人にとって深刻な悩みであり、かつそれを共有できない、互いの意志を理解あるいは共有できない、つまり「分かり合えない」ことこそが、絶望同盟における「絶望」なのだ。



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